「SDGs(持続可能な開発目標)」とあちこちで言われているけれど、実はいまいちピンと来ない…そんなふうに感じたことはありませんか? 環境や平和のために、一人ひとりの行動が大事なのはわかるし、できることはやっているつもりだけれど、話が大きすぎて何をしたらよいかわからない…。
そんなあなたにぴったりな、ちょっと踏み込んだサステナブルな(持続可能な)チャレンジを、空気チャンネルは提案します。家庭で生物の循環を実感できる「コンポスト」です! 自他ともに認める「コンポストのオタク」LFCコンポストのたいら由以子さんに、詳しく話をお聞きしました。
コンポストってなんだ? 今注目される理由は?
コンポスト(compost)は直訳すると「たい肥」のことで、たい肥をつくる容器(composter)を指すこともあります。家庭用のコンポストは、様々なタイプがありますが、手軽なのはダンボール箱型やバッグ型です。容器に自然素材からできた基材と呼ばれる原料を入れて使います。基本的に、毎日出る生ごみなどを容器に入れてかき混ぜると、微生物が分解、発酵させて、たい肥をつくってくれる、という仕組みは共通です。
「プロセスがおもしろい」「恋人のような存在」と、コンポスト生活を楽しむたいらさんですが(詳しくは後述)、背景には環境への問題意識があります。
「コンポストを取り入れるような循環型の生活は、日本人にとって新しい考え方ではありません。江戸時代には、都市の生ごみや排泄物を農村でたい肥として利用するなど、日本では元々循環型の社会が営まれてきました。
ところがここ数十年で急激に、ごみを資源として活用することなく、焼却するようになりました。生ごみの処理のために、日本では1兆円もの税金を使い、焼却時には温室効果ガスのCO2を大量に排出しています」(たいらさん)。 家庭でコンポストを使うことで、自治体が収集車で生ごみを運んだり、焼却炉で燃やす必要がなくなります。家庭でも、生ごみそのものはもちろん、ごみを置くスペース、ビニールのごみ袋、ごみを捨てに行く手間、など様々なものを省略して、生活をスリムにできます。
とにかく楽しいコンポスト
このように、生活に実際のメリットのあるコンポストですが、一番の魅力はたいらさんも強調する「楽しさ」ではないでしょうか。そこで、コンポスト生活の楽しいポイントを4つにまとめてみました。
1.循環を実感するのが楽しい!
コンポストの使い方は簡単です(以下、ダンボール箱型/バッグ型コンポストの場合)。
「基材(生ごみと混ぜ合わせる原料)の入った容器を庭やベランダに置いて、生活の中で捨てられる生ごみを入れ、軽く混ぜるだけ。NGなのは貝殻くらいで、油や骨も入れて大丈夫。旅行などで1週間程放置してもしっかり混ぜることで、また投入を再開できます 。
これを2〜3カ月間繰り返したあとは、生ごみの投入をやめ、熟成期間に入ります。2〜3日に一度混ぜて、乾燥していれば水を入れるなどしながら1カ月ほど過ごすと、安全で、栄養豊かなたい肥ができます」(たいらさん)。 2〜3カ月もあれば、大量の生ごみをコンポストに入れているはずですが、スタートの時からほとんど量は増えません。代わりに、たい肥に栄養が凝縮されていくのです。
「コンポストをはじめると『循環は誰でもつくれる』ことを実感します」(たいらさん)。
コンポストと一緒に家庭菜園をはじめて、できあがったたい肥で野菜や果物を育てたら、さらに循環生活を楽しめそうです。
2.毎日の変化が楽しい!
3カ月も待たなくても、コンポストの中の微生物は、「毎日違う顔を見せて、私たちを楽しませてくれます」(たいらさん)。
まず変化するのは温度です。微生物が活発にごみを分解しているときは、ホカホカと容器の中が温かくなっていきます。油分やタンパク質など栄養の高い食べ残しなどは微生物も大好物なので、そんな温度の変化も見られることが多いです。
入れたごみも、数日単位で変化します。肉や水分の多い野菜はすぐ分解されてしまいますし、分解が進むと魚や鶏の骨がポキっと簡単に折れるなんてこともあるそう。
「コンポストが温かいと『2日前に食べた魚が良かったのかな?』など、あれこれ思いを巡らせます。コンポストは、ささいな変化 で一喜一憂させてくれる恋人のように、気にかかる存在になるんです」(たいらさん)。
3.家族のコミュニケーションが楽しい!
コンポストによって、生ごみは栄養豊富な資源になります。それは人間以外の生物にとっても同じです。目に見えない微生物だけでなく、場合によっては虫がやってくることも(虫の発生を上手に抑える方法もあり、詳しくは後述)。
「果物や野菜の受粉を助けるなど、分解者である虫はこの地球にとって、とても大切な存在です。大人は嫌がるけれど、子どもは人間にとって大切な虫を見つけると、純粋に喜んでくれることも。無理に好きになる必要はないので、正しく理解して、上手にトラブルを抑えながら楽しんでほしいです」とたいらさん。前述のような中身の変化とともに、色々な変化を家族で観察し語り合うのも、コンポスト生活の楽しさです。
4.コミュニティへの参加が楽しい!
目下のところ、たいらさんたちが、力を入れているのがコミュニティづくりです。コンポストのたい肥はつくるだけでなく、使ってこそ意味があります。「コンポストでできたたい肥を農家さんに送って、野菜と交換してもらう」といった、小さな循環型社会の仕組みを進めています。
例えば、地域で共有のコンポストをつくり、たい肥として活用する、コミュニティコンポストの取り組みなどがはじまっています。家庭の中だけでなく、コミュニティに参加して、みんなでサステナブルな生活を考えると、より楽しくなりそうです。
コンポストの種類と使い方
最後に、コンポスト生活をはじめるにあたって、気になるポイントを押さえておきましょう。
コンポストの種類
コンポストには色々なタイプがあります。生活スタイルに合わせて、適したものを選んでください。
設置型コンポスト
土を掘って容器の一部を埋め込みます。庭などに設置して、生ごみのほか、落ち葉や雑草なども入れて発酵させます。
回転式コンポスト
容器ごと回転させられるタイプです。時々回して、微生物に酸素を供給することで、効率よくたい肥づくりができます。
密閉型コンポスト
密閉した容器に生ごみとぼかし(米ぬかや発酵促進剤など)を入れるタイプです。土に移して1カ月ほど待って、ごみを分解させる必要があります。ニオイが発生しやすいので、マンションなどでは要注意です。
ダンボール箱型コンポスト
基材が入ったダンボールに、生ごみを投入してよくかき混ぜるだけ。最後に3週間ほど熟成させます。ダンボールは庭やベランダに置き、2~6カ月ごとの交換が必要です。
バッグ型コンポスト
専用バッグに基材を入れます。使用法はダンボール箱型コンポストと同様で、生ごみを入れてかき混ぜるだけ。コンパクトで虫が入りにくいファスナー仕様もあり、都会でも利用しやすいタイプです。
ミミズコンポスト
基材にミミズが入ったタイプです。悪臭が少ない、たい肥の質が良い、などのメリットがあります。反面、ミミズは好き嫌いがあるので柑橘類など適さない生ごみも。
電動生ごみ処理機
コンポストと混同されがちですが、生ごみを分解することなく、温風で生ごみを乾燥させるなどして、減容化します。そのためそのままでは堆肥にはならないのと、室内に設置できて手軽な反面、本体が高価で電気代もかかります。
悪臭と虫の対処法
続いて、コンポストの2大お悩み「ニオイ」「虫」について、たいらさんおすすめの対処法をお伝えします。
ニオイが気になる場合
コンポストの種類にもよりますが、ニオイが気になる場合は、たい肥を下からよく混ぜ、空気に触れさせることで改善するケースが多いそうです。生ごみの投入は2~3日休んで、微生物の分解を促しましょう 。
虫が湧いた場合
前述のように、コンポスト生活では虫が来ることがあります。コンポストによりますが、カバーをかけたり、しっかり密閉することで、外から虫が入ってくるのを防げます。虫が発生して気になる場合には、中身を全てビニール袋に移し、天日干しにすると2〜3日で死滅しますので、中身を容器に戻して再開してください。
まとめ
このように、少し積極的なサステナブル生活として、よい選択肢になるコンポスト。いつも生活の中にある身近な存在で、毎日楽しみながら育てられるのがよいですね。ぜひ、生物の多様性、命や栄養の循環を体感してみてはいかがでしょうか。
取材協力:たいら由以子さん
大学で栄養学を学び、証券会社で勤務。大好きな父とのお別れをきっかけに、土の改善と暮らしをつなげるための、半径2kmでの栄養循環を目指し、1997年から活動開始。その後、青年団の仲間とNPO法人 循環生活研究所を立ち上げ、2019年にはローカルフードサイクリング株式会社設立。子どもから高齢者、外国人までコンポストでつながる美味しい食の輪をつくるのが生きがい。メンバーとのお茶の時間を一番大切にしている。行動を最良の学習手段とし、活動をスパイラルアップさせるが信条。趣味はイラストコミュニケーション、レコード・映画鑑賞、愛犬と遊ぶ。
たいらさんが開発したバッグ型の「LFCコンポスト」は、都市部のマンションのベランダでも続けやすく、4年間で約4万世帯に普及している。