奮発して手に入れたスーツは、ずっときれいに使いたいものです。しかし、間違えた手入れや保管をしていては、生地の傷みを早めたり、形崩れや虫食いにあってしまうことも。スーツを長持ちさせるための正しいお手入れ方法や、衣替えで長期保管をする際の注意点を、オーダーメイドスーツを販売している銀座テーラーの上澤節夫さんにお聞きしました。
正しいスーツのお手入れ方法
スーツを長持ちさせるためには、日々のお手入れが大切です。正しいケアの仕方を紹介します。
●脱いだら必ずブラッシングをする
汚れていないように見えても、スーツの繊維にはチリやホコリが入り込んでいます。スーツをしまう前は、ブラッシングのひと手間が大切。ポケットに入っているものを取り出したら、襟(えり)→肩→胸→背中→両袖→裾(すそ)の順番に、上から下へとブラシをかけて、生地の表面についたチリやホコリを落とします。このとき、襟は立てて、裏側までブラシをかけるのがポイント。隙間に皮脂汚れなどが入り込みやすいので、必ず襟を起こしてからブラッシングしましょう。
ブラシは、やわらかいイグサ製が生地を傷めにくく、使いやすいです。夏用のスーツは、麻やモヘヤ、コットン、リネンなど薄くてサラサラした手触りの良い生地なので、イグサのホウキブラシをかけるだけで十分にホコリを落とせます。毛の長いカシミヤやウールなどが使われる冬物の生地は、ホコリが繊維の奥に入り込みやすいため、豚毛や馬毛など固めのブラシを使い、毛の流れと反対になるように下から上へ優しくブラッシングします。その後、毛の流れに沿って上から下にホウキブラシをかけると効果的です。
●シワがある場合はスチームアイロンでのばす
特にシワがつきやすい場所は、背中やひざの裏、股関節付近。スーツをクローゼットにしまう前に、スチームアイロンをかけて吊るしておくときれいにシワがのびます。
●肩のサイズに合ったハンガーにかける
スーツのジャケットは、肩の形に合わせてハンガーを選ぶと型崩れしにくく、美しいフォルムを保つことができます。針金タイプのハンガーはスーツ全体にシワが寄ったり、肩などの形が崩れてしまうことがあるので、サイズに合ったものを利用しましょう。
●一度着たスーツは1週間休ませる
1日着たスーツは汗を吸収しているので、クローゼットなどにすぐにしまわずに陰干しして乾燥させましょう。同じスーツを連続して着ると、生地が傷みやすくなります。スーツをきれいなまま長く愛用するためには、一度着たスーツは1週間ほど休ませるのが理想です。仕事などで毎日スーツを着用する場合は、3~5着をそろえておき、最低でも3日は休ませましょう。
●汚してしまった場合はぬるま湯で応急処置
食事中などに汚してしまった場合は、慌ててこすらず、生地の後ろに布を当て、汚れた部分をぬるま湯でぬらしたタオルでたたいて自然乾燥させます。この方法である程度の汚れが落ちますが、あくまでも応急処置なので、きちんとクリーニングをしてください。また、汗をたくさんかいてしまった場合も放置せず、すぐクリーニングへ出しましょう。時間が経つと、黄ばみが出てしまう恐れがあります。
スーツの衣替えのポイント
最近は季節の変わり目がはっきりしないため、衣替えのタイミングは非常に難しく、オールシーズン着用できる素材のスーツもあるほど。気温や天気を見ながら、夏物と冬物を切り替えることが大切です。
長期保管で気をつけたいのは、ホコリや虫食いです。しまう前に、必ずクリーニングに出します。きれいに見えても、1度着たスーツには食べかすや皮脂などが付いている可能性があり、汚れが付いた状態で長期間保管すると、虫食いの原因になります。特に、カシミヤやウールなどの動物性繊維ほど虫食いの被害にあいやすいので注意しましょう。
クリーニングに出す時は、汚れた箇所をしっかり伝え、店員とコミュニケーションをとるとよいでしょう。肩の上の部分や胸まわり、袖まわりは特に汚れやすいので要チェック。クリーニングのビニールカバーは通気性がなく、湿気がカバー内にこもってしまうため、戻ってきたら不織布のカバーに付け替えます。防虫カバーを使うとホコリと虫食いを同時に防いでくれるので一石二鳥です。
クローゼットは湿気が溜まりやすいため、カビが発生するリスクもあります。1年に1回はクローゼットから出し、陰干しをして乾燥させましょう。その際、防虫剤の有効期限が切れていないかチェックすることもお忘れなく。
1年を通して防虫対策を
最近の住まいは気密性が高く、エアコンなどの設備によって、1年を通して気温が安定しています。人が過ごしやすい環境は虫も過ごしやすく、1年中虫食いのリスクがあります。スーツを長期保管する際は、不織布と透明フィルムの組み合わせにより通気性に優れ、中身もわかる「ムシューダ 防虫カバー 1年間有効 スーツ・ジャケット用」がおすすめ。スーツ全体をカバーしてくれるので、防虫だけでなく、クローゼット内のチリやホコリから防ぐことができます。
取材協力:株式会社銀座テーラー 営業部長 上澤節夫さん
1935年創業の、老舗オーダースーツ専門店。「最高のものだけを」というポリシーのもと、店舗と同じビル内で熟練工の「手縫い」によって1着1着丁寧につくられている。政財界や文化界の重要人物から支持されている。