2年あまりの新型コロナウイルス感染対策を経て、私たちの衛生観念は大きく変わり、除菌・消毒といった身の回りの衛生対策が習慣になりつつあります。エステーが2021年8月から取り組んでいる「『Dr.CLEAN⁺』除菌応援プロジェクト」では、このたび「学校」の衛生対策をサポートする取り組みとして、小学校、中学校、高校の教職員へのアンケートを実施。ウィズコロナ・アフターコロナにおける学校の衛生対策への不安や学校掃除における改善すべき点などの声を踏まえて、医療環境管理士の松本忠男さんご協力のもと、「ニューノーマルの学校の衛生対策」について7つの提案を作成しました。
今後、私たちはどのように衛生対策に向き合っていけばよいのでしょうか?学校だけでなく、家庭の掃除にも役立つ内容ですので、ぜひ参考にしてください。
掃除と除菌・消毒、一緒に考えてみませんか?〜松本忠男さんメッセージ〜
マスク着用、手指消毒、ソーシャルディスタンスなど、私たちの生活には新しい衛生対策が定着しました。以前から行っていた日常の掃除に加え、コロナ禍で除菌・消毒をはじめとした衛生対策の負担が増えたと感じている方も多いのではないでしょうか?
ウイルスや菌、カビといった身体に悪いものは、ゴミやホコリに付いて動いています。それらを取り除く掃除は究極の除菌でもあります。そして、感染症対策も掃除も、身体によくないものを「入れない、広げない」という本質は同じですので、掃除と衛生対策を別物として考える必要は必ずしもありません。
「掃除を見直す」というと、やることが増えると思われがちですが、決してそうではありません。「入れない、広げない」の発想を持つと、正しい掃除のやり方とともに、やらなくて良い作業、やらないほうが良い作業がわかるのです。毎日の掃除を単なる作業にせず、時間と労力を本当に必要な対策に費やしてください。
これまでは間違った掃除のやり方を、学校で覚えてしまっている人が多いのが実情です。ぜひ、次の7つの提案を参考にして、学校の衛生対策を見直してみてください。
ニューノーマルの学校の衛生対策 7つの提案
1.教室で汚れやすいポイントを押さえる
教室では、①壁際や隅②モノの周り③出入り口④汚れの発生源、が重点ポイントです。
空間に漂うゴミは、壁やモノにぶつかって下に落ち、その周辺に汚れがたまります。入口付近は、上履きの底に付いた廊下やトイレ、体育館など別の場所の汚れが落ちるので、最も汚れが激しいポイント。窓に近いほうの壁際には、風に乗って入ってきた外からの汚れがたまります。
また、教室ならではのポイントとして、黒板の下が挙げられます(チョークを使う場合)。チョークのカスが、周囲に落ちるからです。
これらの汚れやすい場所は、特に意識して丁寧に、掃除してください。菌やウイルスはゴミについて部屋を移動しているので、先に汚れを取り除くと、除菌・消毒の効果も高まります。
2.掃き掃除は「運び掃除」に
床を勢いよく「掃く」感覚でホウキを使うと、小さくて軽いゴミやホコリが舞い上がります。ホウキはゴミを「運ぶ」感覚で、ゆっくりと一方向に引くのが正しい使い方。汚れがたまりやすい隅や机の脚の周囲は、ホウキを沿わせるように、丁寧に動かします。
また、机や椅子を引きずるように動かすと、汚れを移動させる(広げる)ことになります。動かす場合は、できるだけ静かに。または、机も椅子も動かさずに、ホウキで脚の周りのゴミを取り除くだけで十分かもしれません。
3.昔ながらの雑巾がけは推奨しません
私たちがマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを確保しているのは、物理的な壁をつくり、距離をとることで、ウイルスを吸い込んだり、接触するのを防ぐためです。
この考えに則れば、ゴミのたまった床と、汚れた雑巾に顔を近づける雑巾がけは、不衛生な行為だとわかります。新型コロナウイルスだけでなくインフルエンザ、ノロウイルスなど、さまざまな感染症の流行時には、特におすすめしません。
4.拭き掃除はできるだけ乾拭きで
こまめに換気をすると、教室にはたくさんの砂やホコリが入ってきます。そんな状態で水拭きすると、返って汚れを広げることになりかねません。水に砂を入れると泥水になるように、濡れた雑巾の表面が汚水でいっぱいになってしまうからです。
拭き掃除は乾拭きが原則です。こびりつくほどでなければ、ほとんどの汚れは乾拭きで落とせます。飲み物や食べ物をこぼしたら、そこだけ水またはアルコールで拭けばよいのです。
拭き掃除の際、雑巾や布巾をゴシゴシと何度も往復させたり、円を描くようにグルグル回すのはNG。拭く方向を変えるときに、せっかくとった汚れを置いてきてしまいます。
松本さんが提唱するのは、一方向の「S字拭き」です。布(紙)をきれいに折りたたんで、まっすぐ一方向に拭いていきます。端まで行ったら、布を180度ぐるりと回して折り返します。すべて拭き終わったら、汚れを残したり、落としたりしないよう、そっとつかみとります。
一方向のS字拭きは、せっかくキャッチした汚れを置いてくることなく、きちんと回収するための工夫。最小限の手間で、最後まで理にかなった拭き掃除ができるわけです。
5.掃除用具を清潔に保とう
汚れたホウキや雑巾で、いくら丁寧に掃除をしても、教室はきれいになりません。掃除用具を大切に扱い、清潔に保つことは、衛生対策の基本です。
ホウキのヘッドについたゴミは、ティッシュなどでできるだけこまめに取り除きましょう。汚れた雑巾は丁寧に洗って、すぐに風通しのよい場所に干すのが基本。生乾きの布には雑菌が繁殖し、ニオイやカビ、健康を害する原因にもなります。可能であれば、古い雑巾は交換してください。
掃除用具を入れるロッカーも要注意ポイント。雨の多い時期などは戸を閉め切らず、カビや雑菌を防ぐため空気を入れ替えましょう。
6.掃除の時間を除き、換気の習慣は引き続き
教室の窓を開けて、掃除する学級は多いでしょうが、ホコリが舞うような掃除はNGです。また、換気している間は、砂やホコリが窓から入ることにもご注意を。掃除の時間に窓を開けると、掃除をしながら、外から汚れを取り込むことになりかねません。
しかし、新型コロナウイルス対策にはもちろん、衛生的な教室の環境を保ち、あらゆる健康リスクを下げるためにも、空気の入れ替えは重要です。掃除の時間以外で、換気の習慣は継続するべきです。
7.抗菌アイテムを賢く使おう
「除菌」とは、今そこにある菌やウイルスを取り除くこと。除菌アイテムには、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムなどが使用されています。
「抗菌」「抗ウイルス」は、持続的に菌やウイルスを抑制することを指します。菌やウイルスが住みにくい環境をあらかじめつくり、増殖するのを防ぐのです。
抗菌、抗ウイルス効果を持つアイテムを活用すれば、繰り返しスプレーをかけたり、シートで拭いたりしなくても、一定期間リスクを下げられます。接触の多い個人の机や、不特定多数が触れるドアノブ、こまめな除菌が難しい掃除用具などに絞って使用すると、効率的な衛生対策となります。
正しい清掃や衛生対策を学ぶ「福育(拭く育)」授業レポート
松本さんとエステーが、学校の衛生対策に取り組んだ事例として、横浜市立荏子田小学校の「福育授業」をご紹介します。
荏子田小学校では、2021年11月より「コロナに負けるな!衛生対策調査隊 正しい清掃を広げよう」をテーマに、4年生が総合学習に取り組みました。
児童たちは、近隣の商業施設で衛生対策の実態を取材したり、オリジナルの啓発ステッカーを作成したりと、主体的な学びを実践。そのなかで、多くのメディアで掃除法を伝えてきた松本忠男さんが、本当に正しい「拭き方」を科学的に伝える「福育」授業を行いました。児童たちは、蛍光塗料とブラックライトを用いた汚れの可視化実験を体験し、松本さんが推奨する“一方向拭き”を学びました。
エステーは今後も松本さんと連携し、除菌作業の負担やストレス増加、正しい清掃方法への知識不足といった問題の解決に向けて、「福育」活動をさらに進めていきます。
まとめ
児童生徒が学校で掃除をするのは、日本独特の習慣だと言われます。さまざまな意見はありますが、松本さんは「子どものうちから正しい掃除の方法を学ぶことで、家庭や公共の場でも衛生的に使おう、汚したらきれいにしようという意識が生まれます」と、子ども自身の掃除を支持します。
一方で、ムダな作業や間違った方法を続けることには反対です。正しい清掃方法を広げ、健康でより良い社会を育てることが大切だと、松本さんとエステーは考えています。
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「ニューノーマルの学校の衛生対策」
松本忠男さんプロフィール
フロレンス・ナイチンゲールの著書「看護覚え書」に共感し、35年間、病院の環境衛生に携わる。
東京ディズニーランド開園時の正社員、ダスキンヘルスケア(株)を経て、亀田総合病院のグループ会社に転職し、清掃管理者として約10年間、現場のマネジメントや営業に従事。1997年、医療関連サービスのトータルマネジメントを事業目的として、(株)プラナを設立。
亀田総合病院では100人近く、横浜市立市民病院では約40人の清掃スタッフを指導・育成し、これまで現場で育ててきた清掃スタッフの総数は700人以上。現場で体得したコツやノウハウを、多くの医療施設や清掃会社に発信する。
2019年1月からは、中国の深圳市宝安区婦幼保健院(1000床病院)の環境整備を指導するなど、活動の場は海外にも広がる。
(株)プラナ代表取締役社長、ヘルスケアクリーニング(株)代表取締役社長。