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フランス人はどのように香りを楽しんでいるか? 日仏香りの文化比較

「フランス人は香りへの関心を大切にしている」と語るのは、香りの専門誌「PARFUM」編集長・香水評論家の平田幸子さん。フランスでは男女を問わず暮らしの中で香水が親しまれており、それを支えているのが南フランスの「グラース」です。平田さんへの取材を通して、グラースが生み出してきた香り文化と、その日本との違いを探りました。

―フランスでは今も香水は身近な存在なのでしょうか?

フランスでは、赤ちゃんが生まれたとき、記念に香水を贈ることがあります。「こんな人になってもらいたい」と願いを込めて、イメージに合った香りをつけてあげるのです。
そんな習慣もあるほどですから、フランス人は子どものうちから香りに関心が高いんです。大人びた子は、小学生くらいで香水をつけていることも、珍しくありません。

女性はもちろん、男性にも香水はポピュラーです。そのせいもあってか、フランスでは化粧品より香水のほうが売れている、というデータがあります。服やお化粧はシンプルな人が多いのですが、代わりに香りのおしゃれを楽しんでいます。

絵画、音楽、ワインに美食と、とにかく文化にうるさいのがフランス人の国民性。
ワインのソムリエが「森の下草のような・・・」「濡れた子犬のような・・・」と独特な表現するのを、聞いたことがないでしょうか? ワインをただおいしく楽しむのではなく、味と香りの繊細な感覚を大切にし、しかも言葉で表そうという試みです。

香水もそんなフランスらしい文化のひとつです。好みの香りを身につけるだけでなく、小さな変化を楽しむ文化があります。距離や時間の経過で微妙に変化し、余韻を残しつつ広がっていく――ドレスのような香りがよいとされています。

―日本人の一般的な感覚とは少し違うようですね。日本では、部屋の消臭・芳香が一般的になりましたが、フランスではどうでしょうか?

フランスでもお部屋向けの香水や芳香剤はよく使われています。けれど、嫌なにおいを消臭しようという発想はあまりなく、香りを楽しんだり自分自身のために使っているように思います。
消臭はきれい好きな日本人ならではの感性なのかもしれません。日本人は、ムダが削ぎ落されたシンプルな物事を愛するように思います。

フランス人は、より複雑なものを好むようです。アフリカやヨーロッパのさまざまな文化が混ざり合って社会ができていることが関係しているのでしょう。ですから、ムダをなくすのではなく、イメージを広げ、豊かな感性を楽しむために暮らしに付け加えることを考えるのではないかと。

また、日本では、お茶席でお香を炊くように、客人をもてなす意味で香りが使われることもあるでしょう。フランス人にとっての香水は、あくまで自己表現です。

―そんな中で、なぜグラースが「香水の都」と呼ばれているのですか?

南仏のグラースは香水の発祥地と言われています。リゾート地として有名なニースやカンヌにほど近く、一年を通して温暖で水がきれいなところです。昔から、香料になる花や果物が豊富にありました。

香水産業が本格的にグラースで発展したのは18世紀のこと。それ以前からイタリアのミラノでつくられる革製品が人気だったのですが、手袋などを長時間つけていると手ににおいが移ってしまいます。
そこで、香料付きの革手袋を作ったところ、ヨーロッパ中で大ヒット! 香料の豊富なグラースで皮なめしが行われるようになり、やがて香水産業が発展したのです。

今でも、たくさんの香料会社がグラースに拠点を構えています。ヨーロッパで活躍する調香師にはグラース出身の人が多いです。
街の中にある香料工場は減ってしまいましたが、それでもグラース産の天然香料は一目置かれるブランドです。

―グラース産の香料は質が違うということですか?

例えば、同じローズでも、ブルガリアンローズとグラースのローズを比べてみましょう。ブルガリアンローズはみずみずしく清涼感がありますが、グラース産はもっとふんわりとやわらかく光の中に咲くローズの優しさが感じられます。
グラースは人も風景もどこかのんびりと牧歌的で、何度も行きたくなる大好きな街です。

まとめ

自然や歴史が重なりあう香りの文化は、お国柄でまったく違うことを改めて感じさせてくれました。日本でも最近は、女性の社会進出が進む中で、自分の価値観を大切にしたいというと考える女性が増えているように思います。グローバル化が進む今、フランス流の「自己表現の香り」を日本で取り入れてみてはいかがでしょうか?

※本記事は、2018年3月に取材・制作しました。

平田幸子さんプロフィール

香水評論家、香りの専門誌「PARFUM」編集長、フランス調香師協会会員、日本調香技術普及協会理事。
香水評論家であった父、平田満男の後を継ぎ【パルファム】誌を1978年以来発刊。香りの普及、啓蒙活動のため、書籍・雑誌の監修・執筆、カルチャースクールなど幅広く活動。

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