空気チャンネル

イライラしたり落ち込んだり……。それってPMS(月経前症候群)かも? セルフチェックと正しい知識で辛い症状を緩和させる工夫とは

NEW

イライラして家族につらく当たってしまったり、仕事中に眠くなって周囲に迷惑を掛けたり…なんて覚えはありませんか? こんなとき、自分を責めてしまうかもしれませんが、もしかしたらPMS(Premenstrual Syndrome)の症状かもしれません。

PMSは月経前症候群とも呼ばれ、月経がはじまる1~2週間前に心や体の不調が現れ、月経が始まるとともに症状が軽減・消失するもので、その症状はさまざま。その数、150種類以上ともいわれています。そこで、近畿大学東洋医学研究所所長・教授 武田卓先生に、PMSの正しい知識やセルフチェックシートの活用方法、症状を緩和させる工夫などを伺いました。

「PMSの人は卵巣の働きが悪い」は全くの誤解

PMSがあると「卵巣の働きが悪い」「ホルモンバランスが乱れている」と思っている方も多いのではないでしょうか。ところが、それは全くの誤解なのです。

PMSの症状があるということは、排卵があり、月経が来ているということなので、卵巣が正常に機能している証拠とも言えます。月経があっても排卵していない人は、基本的にPMSの症状はないのです。

また、「月経の直前だけに起こる」と思っている方もいますが、厳密にはそれも誤解です。30日周期なら、月経がはじまる2週間前に排卵しており、その頃にホルモン変動が大きくなります。そのため、排卵の少し前から症状が出る場合もあります。その後いったん症状が少し治まってから、月経の直前に再びひどくなる人もあり、このように症状のでかたには個人差が大きい疾患です。

月経時に調子が悪いのは、「月経困難症」という別の疾患かもしれません。とはいえ、PMSと月経困難症は相関が強く、併発している場合も多くみられます。

症状は150種類以上も!? 見分けにくい思春期や更年期

PMSは150種類以上の症状があると言われています。

イライラや気持ちの落ち込み、気分の不安定さ、涙が出るほどの悲しみ、意欲の低下などのほか、お腹が減って仕方がない、特定のものばかり食べたくなる、腹部の膨満感やむくみ、乳房痛や頭痛、強い眠気など様々な症状があります。

「気が付いたら冷蔵庫の前に座っており、冷蔵庫内の甘いものを全て食べてしまっていた」という人もいるほどです。

また、年齢によっても症状の出方が異なります。10代にPMSの症状がある場合には、思春期特有の感情の起伏などと判別がしにくいことも。同じように、40代後半から50代にかけては、更年期障害と症状が似ているため、見分けがつきにくい場合もあります。

見分け方としては、月経周期との関連です。PMSの場合は月経がはじまる1~2週間前に症状が現れますが、別の原因であれば月経周期と関係なく症状が現れます。

セルフチェックシートで調べてみよう

日頃から月経周期と、気になる症状や自分の気持ちなどを記録しておくと便利です。毎日付けるのが大変であれば、「今日はイライラしてしまった」「普段は怒らないようなことで怒ってしまった」など、心や体が不調のときにだけ記録を付けるのもよいでしょう。

調子が悪くなりそうな時期があらかじめわかれば、大事な予定を入れないようにするなど、トラブルを避けられます。

自分自身の状態を確認するためのPMSチェックシートを紹介しましょう。セルフチェックシートは、14個の質問に答えるだけ。

直前だけでなく、直近3ヶ月ほどを思い出しながらチェックすると良いでしょう。

チェックシートで中等度以上のPMSの疑いがあるという結果が出たら、医療機関を受診することをお勧めします。

生活習慣の見直しや、香りなどのリラックス法でつらさが和らぐことも

PMSの症状は、生活習慣を改善すると軽くなる場合もあります。

まずは、適度な運動が大切です。無理なく、楽しく続けられるものを選んでください。

次に気を付けたいのは食べ物です。特に白砂糖などの精製糖を使った甘いものには注意が必要。症状が出ているときに多く摂取すると、脳内のセロトニンが増えて一時的に気分がよくなりますが、その後で急に血糖値が下がります。血糖値の急激な変化(乱高下)は気分の変動につながりよくありません。
できれば、少しずつ吸収されて、血糖値を一定に保てるように腹持ちのいい食べ物を選ぶようにしてください。糖質の吸収を穏やかにする食物繊維を積極的に摂ることもよいでしょう。
 
他にも、お風呂にゆっくりつかるなど、リラックスすることもお勧め。好きな音楽や香りでリラックスするのも、気分が和らぎます。トドマツ精油やラベンダーの香りはPMSの緩和機能があるというデータ(※1)もあります。強くない香りなら自宅や外出先などでも場所を選ばず利用できます。職場や環境等、ストレスの原因を見直すのも一つの選択肢です。
※1
月経前の不調(PMS)へのトドマツ精油の香りによる緩和効果を確認
https://www.st-c.co.jp/news/newsrelease/2024/20240902_002095.html

ひとりで苦しまずパートナーや職場へ伝えて。症状がつらい場合には医療機関へ

PMSは、まだまだ社会的認知の低い疾患です。広く知ってもらうことが大切ではあるものの、現状では、自分から周囲に伝える必要があります。

例えば、一緒に過ごすことの多い家族やパートナーへは「この時期はイライラしてしまう」と事前に伝えたほうがよいでしょう。自宅のカレンダーにあらかじめ印を付けておくのもよいかもしれません。

仕事への影響を感じたら、職場の上司や同僚などにも伝えておいてもよいかもしれません。周囲の人が認知して、理解しているだけでもお互いに過ごしやすくなるはずです。

また、症状がひどい場合には、医療機関での治療も検討してください。

最近は、パートナーと一緒に病院へ行く方も多く、中でも、パートナーから病院の受診を提案されるケースも増えています。お互いが嫌な気持ちでいるよりも、思いやりをもって治療を始められるのが理想的です。

近畿大学東洋医学研究所所長・教授 武田卓先生プロフィール

1987年大阪大学医学部卒業、1995年同大学大学院博士課程修了。2012年より近畿大学東洋医学研究所所長・同女性医学部門教授。東北大学医学部産婦人科客員教授。
漢方・産婦人科・腫瘍・内分泌の専門医として、女性のヘルスケア全般を西洋・東洋医学の両面から研究。特に、女性心身症(更年期・PMS)、がん患者愁訴、冷え症、フェムテックなど。
https://www.med.kindai.ac.jp/toyo/